自覚症状もなく、進行していく糖尿病。


その恐ろしさを何となく知ってはいるものの、多くの人は行動にうつそうとはしません。体の調子はすごくいい、病気だとは思えない。人間は、「危機」が差し迫って初めてそれを本当に「危機」と知る傾向があるといいます。たとえば、地震なんかはその怖さを重々知ってはいるものの、準備や対策をされる人はなかなか少ないですよね。で、実際に起こってから大慌て、大慌て。 自分の体にもそれが当てはまると思います。今は何ともない。だからきっといつまでもこのままじゃないかなと、気にしていない。

 実は、日本の糖尿病患者さんの半分の方がせっかく早期に糖尿病と診断されたのにもかかわらず放置されています。その方々は、合併症をことのほか進行させてから、医療機関に助けを求め受診されます。がしかし、進行した合併症は一人歩きして、止めるどころかその進行を防ぐこともできません。実際に治療されている患者さんは半分であり、またその中でうまく血糖コントロールされておられる患者さんは、またさらに少ないのです。 どうしてでしょうか? なぜ、一度きりの人生を逝き急ぐ生活にピリオドを打ち、合併症のない生活を送るための行動にうつそうとはしないのでしょうか?

 今日も体の調子はいい、病気だとは思えない。 そう、確かに今日のところはそうでしょう。糖尿病の治療は10年先、20年先もそういえる生活を獲得するためにあるのです! 何も変わらないってことが成功ってことなのです。だから、もっと知りましょう。自分は知らないけれど、実は自分の中で何が起こっているのかを!
 

早くみつけて、早く行動を起こす。それが、最も大切なのです。


1.糖尿病とはどのような病気なのでしょうか

 糖尿病とは、血糖値が高い状態が連続的に認められ、将来的に血管合併症を発症する確率が高く、治療介入が必要な状態のことをいいます。血糖値とは、血中ブドウ糖濃度のことです。食べ物の中の糖分は胃や腸で消化されて、最終的にブドウ糖に分解されます。そして血液中に吸収され、体のエネルギーとして利用されるのです。糖尿病の方は、血液中にはブドウ糖が多くあってもそれがうまく体に利用されにくくなっています。利用されるためには、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが必要です。糖尿病の方はこのインスリンの作用が不足しています。糖尿病の発症原因には、遺伝的なものや脂肪摂取過多、肥満、運動不足などの生活環境の影響、膵・肝疾患など様々なものがあります。



2.糖尿病治療の目的は何でしょうか?

糖尿病の初期は自覚症状がないことがほとんどで、血糖値が高くてもそのまま放置されていることが少なくありません。
では、どうして症状がないのに、治療をしなくてはならないのでしょうか?血糖値を良好にコントロールして、なおかつ、血圧、体重、血清脂質(コレステロール・中性脂肪、等)もきちんとコントロールすることで、将来起こりうるであろう様々な合併症を予防、あるいはその進展を防ぐことができるからです。逆に血糖値を高いままにしておけば、合併症の発症、進展を招くことになるわけです。合併症には3大合併症と呼ばれる糖尿病性細小血管合併症(網膜症・腎症・神経障害)および動脈硬化性疾患(虚血性心疾患、脳血管障害、閉塞性動脈硬化症)、等があります。つまり、糖尿病の治療の目的は、合併症のない健康な人と変わらない日常生活の維持、健康な人と変わらない寿命を得ることにあると思います。糖尿病のすべての人にとって、血糖値を正常化させることが、重要な治療なのです。

 

3.血糖コントロールの指標と目標値

血糖コントロール指標では、ヘモグロビンA1c(HbA1c)が重要で、主要な判定はこれによって行われます。空腹時血糖値は代謝状態を示す値としては比較的安定していて有用ですが、食後2時間の血糖値は治療法などによりかなり異なります。これらの血糖値はHbA1cを補強する代謝指標としてHbA1cと組み合わせて代謝状態の評価に用います。



4.へモグロビンA1c(HbA1c)
―採血の前1〜2ヶ月の血糖コントロール状態を示す重要な指標―

ヘモグロビンは血液の赤血球の中にあって、肺から酸素を体のすみずみまで運ぶ役目をしています。ところが血糖値が高いとブドウ糖と結合したヘモグロビンが多くなってきます。これをグリコ(糖化)ヘモグロビン(ヘモグロビンA1c)と呼び、過去1〜2ヶ月間の血糖変動を表現します。ですから、「検査に行くから」といって1週間前から急に気をつけて一時的に血糖値は良くなってもHbA1cに大きな変動はありません。つまり、この値により“平均的な血糖”の動きの状態がわかるのです。健康な人のHbA1cは、6%未満です。血糖コントロールの目安として、合併症予防の目標はHbA1cが7%未満です。ただし、年齢、罹病期間、臓器障害、低血糖の危険性、サポート体制などを考慮して個別に設定されます。



5.血糖値とHbA1cと組み合わせてより良い血糖コントロールを目指しましょう。

糖尿病でない人は、血糖値が食事前で80〜110未満mg/dl、食後でも80〜140未満mg/dlの範囲に抑えられています。糖尿病の人で空腹時血糖値120  mg/dl以上、200  mg/dl以上では慢性合併症の発症頻度が多くなり、大血管障害も起こし易くなります。血糖コントロール状態の指標と評価を示します。








高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(2016糖尿病学会より)