甲状腺の病気


 甲状腺はのどぼとけの下にある大きさ4cmほどの蝶形の臓器で、甲状腺ホルモンを分泌しています。このホルモンはとても大事なホルモンで、これがないと人間は生きていくことができません。甲状腺の病気は比較的多く、わが国では成人の10%程度に何らかの甲状腺の異常が認められます。また、男性に比し女性に2-5倍程度多く異常が見つかります。以下によく見かける甲状腺の病気について説明します。

1.バセドウ病

 この病気の原因はよく分かっていませんが、体質が関係していると考えられています。バセドウ病ではからだの中に甲状腺を刺激する物質(自己抗体)ができ、そのために甲状腺が刺激され、腫れて大きくなりホルモンを必要以上に分泌するようになります。このため、動悸、体重減少、手のふるえ、暑がりなどの甲状腺ホルモン過剰症状が出てきます。また、この自己抗体は眼球周辺にも作用することが多く、目が飛び出て見えるようになることもあります。ひどい場合には心臓の拍動の乱れ(不整脈)を起こし、心不全の状態になることもあります。米国のブッシュ大統領もバセドウ病で不整脈になりました。 バセドウ病には3種類の治療法がありますが、飲み薬(抗甲状腺薬:メルカゾールプロパジール)で治療する場合には、少なくとも1年以上薬を飲み続けることが必要で、症状がなくなったからといって勝手に薬をやめることは禁物です。薬で治りにくい場合や、副作用で薬が使えない場合には、手術で甲状腺を切り取って治療することもあります。また、放射性ヨードを服用し治療することもあり、米国などでよく行われています。

2.慢性甲状腺炎(橋本病)

1912年、日本人医師橋本策によって初めて見いだされた病気です。この病気も原因はよく分かっていませんが、バセドウ病の親戚のような病気と考えられています。甲状腺に慢性の炎症が起きて、甲状腺がやや硬く、少し腫れてくる人が多いようです。何年間かこの病気にかかっていると、だんだんと甲状腺の働きが悪くなり甲状腺ホルモンが足りなくなってくることもあります。そうなると、徐脈(脈が遅い)、体重増加、寒がり、便秘、コレステロール増加などの甲状腺ホルモン不足症状が出て、重症では意識がなくなることもあります。定期的に血液検査などで甲状腺ホルモンの不足がないかどうか調べる必要があります。一部の患者さんでは、昆布類などヨードの多い食べ物を食べすぎた時に甲状腺の働きが悪くなることもあります。ホルモンが不足している場合には甲状腺ホルモンの錠剤(チラーヂンS)を服用する必要があります。

3.亜急性甲状腺炎

ウイルス感染などにより、甲状腺が激しい痛みを伴って硬く腫れてくる病気です。甲状腺組織が破壊されホルモンが血液の中に漏れて出てくるようになり、一時的に動悸、手の振るえなどの甲状腺ホルモン過剰症状が出現します。鎮痛薬をのんで様子を見ていればたいていよくなって来ることが多いようです。炎症がおさまると、一時甲状腺ホルモンの不足状態になった後、甲状腺の働きが正常に戻ることが多いようです。  亜急性甲状腺炎に似た病気として、橋本病の患者さんが体調の変化などにより、甲状腺の痛みや発熱を起こしてくる場合があり、慢性甲状腺炎の急性憎悪と呼ばれます。

4.無痛性甲状腺炎

橋本病の患者さんなどで、分娩後などに一時的に激しい炎症がおこり、甲状腺が破壊されホルモンが漏れて出てくるようになることがあり、無痛性甲状腺炎と呼ばれています。この場合、首の痛みはなく、血液中にホルモンが増えバセドウ病と同じような甲状腺ホルモン過剰症状が出現します。2-3ヶ月後に甲状腺の働きが一時的に悪くなりホルモン不足となることがありますが、様子を見ているうちに自然に良くなることが多いようです。一部の患者さんでは甲状腺の働きが悪くなったまま元に戻らなくなり、甲状腺ホルモン剤の服用が必要になることもあります。

5.腺腫様甲状腺腫

甲状腺にしこり(結節)ができる病気のひとつです。軟らかいしこりが複数でき、しこりの中に一部液体がたまることが多いようです。良性の病気で、ふつう甲状腺の働きは正常です。

6.甲状腺嚢胞

甲状腺の中に液体のたまった袋ができる良性の病気です。甲状腺の働きは正常です。

7.甲状腺濾胞腺腫

良性の腫瘍で、ふつうは甲状腺内に一こだけ結節ができます。一般に、甲状腺の働きは正常です。大きいものでは癌との区別が困難なこともあります。

8.甲状腺癌

乳頭癌、濾胞癌、未分化癌、髄様癌などがあります。このうち約80%が進行の遅い乳頭癌です。甲状腺に硬いしこりができ、放置するとまわりのリンパ節に移転することもあります。

5,6,7,8,の区別は、専門医による触診、超音波検査、吸引細胞診検査などでできますが、中には区別の困難な場合もあります。癌の疑いがある場合には専門医による手術が必要です。また良性の場合でもしこりが大きい場合には、気管などを圧迫することがあるので手術をした方がよいでしょう。